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実際の犯罪現場写真をもとに“悪の街=アンナム市”を創造

キム・ソンス監督は頭の中で描いた作品のイメージをスタッフに伝えるために、実際の犯罪現場のルポ写真を用意した。また製作チームはソウル、京畿、仁川、釜山など韓国の主だった都市を訪ね歩き、最低でも40~50年以上の歳月を経た質感を持った建物、路地裏、空間を探し出し、現実のロケーションが醸す雰囲気をもとに作品全体の彩度を落とした美術コンセプトを完成させた。撮影監督のイ・モゲも主人公ドギョンのささくれた心情が感じられる映像を狙って、閉ざされた構図とトップライトの光を利用した限定的な照明を駆使して、暗闇を意識させる画作りにこだわった。特に光源をフレームの中に直接入れ込む手法は韓国映画ではあまり使われないが、不均質な印象を高め、光と闇のコントラストを強化させる役割を果たしている。また、カメラの動きを人物に密着させることで、カメラがキャラクターの感情の動きを一緒に感じるような迫真の映像を生み出した。スクリーンを見ているだけでドギョンの感情とシンクロさせる一瞬たりとも目が離せない映像が観客を闇の世界に導いてくれる。

韓国映画界を代表する一級のスターの怪演合戦

主人公ドギョンを演じたのは、キム・ソンス監督との4度目のタッグとなるチョン・ウソン。トップスターにのし上がるきっかけになったのが、キム・ソンス監督と初めて組んだ『ビート』(1997)。アクションとロマンスと復讐劇を織り込んだ青春映画に大抜擢されたチョン・ウソンはたちまち青春のアイコンになった。以降オール中国ロケのアクション時代劇『MUSA-武士-』(2001)などキム・ソンス監督と仕事する度に新たな姿、新しい魅力を見せてきた。『アシュラ』でも過去最高に悪に染まったキャラクターを熱演している。メインキャストの中でも一番年若いチュ・ジフンは、現場で共演者たちの演技のテンションに「ここまでやるのか!」と驚いたという。ヒューマンドラマにアクション、ミュージカル舞台もこなすファン・ジョンミンや、ナ・ホンジン監督作『哭声/コクソン』(2016)で國村準と共演したクァク・ドウォンら大先輩たちの中で、唯一の純粋なキャラでありながら、ある一線を越えて悪に染まっていくムン・ソンモを妙演。怪演を披露する共演陣とはひと味違う存在感をアピールした。

観客に“痛み”を感じさせる怒涛のアクションシーン

『アシュラ』はキム・ソンス監督にとって久々のアクション映画となった。監督が目指すのは常に肉体の動きで感情を爆発させるアクションだが、本作では主人公が次第に泥沼の中に引きずり込まれる展開であるため、観ていて痛快ではなく、観客も痛みを感じるようなリアリズムを志向。武術監督のホ・ミョンヘンには“なぜ彼らが闘うのか?”を言葉ではない表現方法をリクエストした。韓国ノワール『新しき世界』(2013)や韓国初のゾンビ映画『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016)で知られるホ・ミョンヘンは、スタントテクニックではなく感情が高まった時にしそうな動作を使ったアクションを振り付けた。特にラストシーンの壮絶さは本作のアクションスタイルが生んだ真髄だろう。また監督が特にこだわったのがドギョンの感情を爆発させるカーチェイス。より危険なシーンにしたいという監督の要望に、撮影監督のイ・モゲが出した設定は技術的には非常に難しいものになったが、スタジオと実際の道路を行き来しながら車を走らせ撮影、生の躍動感あふれるハードなシーンが実現した。